漢方を生活に生かそう(2)
前回のお話で漢方における病因論の概略はおわかりいただけたと思います。また六気を元として自然の作用が人間を養っている事もおわかりいただけたでしょう。今回は少し抽象的になってしまうかも知れませんが、漢方を考える時に基本となる学説についてお話いたします。
陰陽
古代の中国では、自然現象を観察し、宇宙の万物が「陰陽」という相反する二つの要素によってなりたっている事を発見しました。そもそも陽とは山の日があたっている所を意味し、陰とは山の日のあたらない所を意味する事だったようです。
1. 陰陽は相反する。一般的に動的な物を陽とし、静的なものを陰とします。すなわち天は陽・地は陰、日は陽・月は陰、昼は陽・夜は陰、火は陽・水は陰・・・
2. 陰陽は循環する。「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる。」これは陰はどこまで行っても陰かというと、夜中をすぎると昼に向かって陽がはじまる事を意味します。冬至は1年中で最も日が短い日ですが、つまり陰が極まったという事です。ですからこの日を東洋では冬至として西洋ではクリスマスとして「一陽来復」を祝うのです。
3. 陰陽はその中に陰陽がある。「陰中に陽あり、陽中に陰あり。」男の中の男は陽中の陽ですが、女性的な男性もいます。陰の成分と陽の成分は全くどちらかだけとはいえません。
五行
五行とは、木・火・土・金・水という5種の元素の相互連係の道理を用いて、自然界に生まれ形成された全ての事象を説明する物です。五行には相生・相剋という規律があります。
相生は互いに促進する関係をいい、水生木・木生火・火生土・土生金・金生水・・・です。
相剋は互いに抑制する関係をいい、金剋木・木剋土・土剋水・水剋火・火剋金・・・です。
これから易を勉強するわけではありませんが、漢方医学はこの中国哲学の上に構築されその上で実行されているのですからこれを無視する事はできません。
よく漢方を批判して科学的でないという事があるようですが、それは西洋の科学の上でみると科学的ではないという事で、そもそものフォーマットが違っているのです。私達のように日常的に漢方に関わっている者からいわせていただけば、西洋の科学という物差し(物差しは長さを測る物)で漢方という液体のような物を計ろうとする事に無理があると思います。西洋的な科学では客観制を測定数値で追及して今日の発展を遂げてきました。しかし中国では陰陽とか五行とかを用いてシンボライスされた物によって客観制を持たせてきたのです。
英語で木は(wood)と書いて、ウッドと綴りを確認して「ああ、木の事だ」と思うのが西洋的な思考ぱたーんです。ところが漢字で(木)と書くと、目に飛び込んだ瞬間に木を意味する事が判るだけでなく、木の形や成長して伸びていく性質までもが示されます。これが漢字を用いた文科です。
漢方の診察には五感を用いるだけで、特別な機械や道具などは使いません。陰陽虚実により病邪の勢いと患者の抵抗力を判断します。そして五行によって病症部位を分別して行くのです。そして導き出された結果を(証)といいます。漢方ではこの証が病名であり、治療法であるのです。葛根湯証は葛根湯を飲めば治るという事で、肺虚証は肺の経絡から気を補えという事なのです。
今回は大分理屈っぽくなってしまいました。日常生活にも陰陽や五行はしばしばみられます。「彼は陽気だ・・・。」卦の九星に拘るなど今でもよくあります。それはそれとして陰陽でも五行でも違った性質の対立や協力により一個の人間が成り立っているのです。それは男女においても、何人かのグループにおいてもいえる事です。いい関係とかいいバランスが肉体的にも精神的にも健康をもたらしてくれるのではないでしょうか。
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